COLUMN弁護士コラム

2021.09.15

ワラント訴訟と説明義務

ワラント訴訟と説明義務

 

1.今日では取引をする時に売主などに課されている説明義務は、極めて当たり前のこととなっています。

しかしながら、私が弁護士登録した平成元年頃は、説明義務についての理解は、今日ほどではありませんでした。

ところで私は、平成元年に弁護士登録をし、平成3年4月に事務所を開設しました。

私が事務所を開設して直ぐに先物取引を行として行なっていた株式会社イタカ(以下、「イタカ」という。)という会社が破産の申し立てをしました。

私は、仙台弁護士会消費者問題対策特別委員会の一員として被害者の救済活動を行ないました。

イタカの破産による先物に投資した者の救済は、最初の相談が宮城県消費生活センターへの相談が最初であったことから、宮城県消費生活センターの相談員の方々と一体となっての活動でした。

そして仙台弁護士会消費者問題対策特別委員会の委員長を弁護団長とする弁護団は、53名の原告団による10億円越える損害賠償請求訴訟を仙台地方裁判所に提起しました。

しかしながら、イタカは、裁判所に自己破産の申立をしていましたから、訴訟の認容判決が下されても回収はほとんど不可能でした。

わずかにイタカの役員を刑事告訴して示談金2000万円と金1000万円を支払ってもらっただけでした。

 

2.仙台弁護士会消費者問題対策特別委員会を中心とする弁護団によるイタカ訴訟は、当時の全国先物研究会の活動の一環としてなされました。

私は、丁度その頃盛岡で開催された全国先物研究会でイタカ訴訟について報告いたしました。その報告が終わった後で私は、全国先物研究会から分かれて新たに全国証券問題研究が発足したことを教えられ、参加してみないかと誘われました。

私は、当時目の前を通るものは何でも経験してみようとの考えで行動していましたから、直ぐに参加したいとの希望を出し、参加することにしました。

私の記憶では、私の参加した全国証券問題研究会は、京都で開かれ、当時の日弁連の消費者問題対策委員会の大深元委員長も参加されていたと記憶しています。

私が全国証券問題研究会に参加して驚いたことは、そこでは、株式取引も投資信託も詐欺商法の対象であるとして議論されていたことでした。

そして当時全国証券問題研究会が取り上げていた問題は、いわゆるワラント問題でした。

ワラントとは、株式を発行する際にその株券についている新株引受権のことです。例えば、1000円の新株を発行する場合に株式本体を金800円分とし、残り金200円分を新株引受権とし、新株引受権を行使した時に新株が200円以上の価値があれば儲け、金200円以下であれば損というハイリスクハイリターンの投機性の高いものでした。

ワラントが他の株式と異なっているのは、普通の株式なら下落しても会社が存続している限り、いつか必ず値上がりする可能性がありますが、ワラントは、行使期間が7年とか10年と定められており、その行使期間を経過すると単なる紙屑になってしまうということでした。

証券会社各社は、ユーザーにワラントを販売する時ワラントの仕組みを解説した目論見書に基づいて説明をし、目論見書の最後とページの半分についてい た「目論見書に基づいて説明を受けました。」という文言の下にユーザーに日付欄を埋めさせ、捺印させてその部分を切り取って持ち帰っていました。

何が問題になったかというと、ワラントを購入させられたユーザーのほとんどがワラントを普通の株式と同じでいつか高くなるのではないかと考えているうちに行使期間が徒過して単なる紙くずになってしまうことが多かったことから、証券会社の営業マンがユーザーにワラントを販売する時にワラントに行使期間があることをきちんと説明していないのではないかということでした。

 

3.私は、全国証券問題研究会に13回参加しました。その開催地は、持ち回りでした。記憶に残っているのは、博多で2回開催されたこと、岐阜県犬山市で開催されたこと、宮崎市でも開催されたと思います。当然のことながら、大阪での開催もあったはずです。

私は、最初の頃、ワラントの何が問題なのか分からないまま、全国問題研究会に参加していたことを覚えています。しかしながら、私は、全国証券問題研究会に参加しているうちにユーザーがワラントを購入するか否かの決定をするためにきちんとした説明を受けなければワラントを購入し、権利行使ができないという問題であることに気づきました。私がこのことに気づいた最大の要因は、全国証券問題研究会の開催地の弁護士の情熱にあふれた研究による成果とその発表にあったことは言うまでもありません。

 

4.ワラント訴訟は、当初軒並み敗訴を繰り返していました。ところが、東京地方裁判所で全面勝訴の判決が出ると勝訴判決が続けて出ました。その後、揺り戻しがあり、過失相殺が当たり前になり、大体請求額の6割、5割、そして4割程度が認められるようになりました。

私自身が申立てたワラント訴訟は、仙台地方裁判所の当時の山一証券を相手とする訴訟、大和証券を相手とする訴訟、そして盛岡地方裁判所における野村証券を相手とする訴訟の3つの訴訟でした。

盛岡地方裁判所の訴訟は、2億円を越える損害賠償請求訴訟でしたから、仙台弁護士会の有志の弁護士で弁護団を立ち上げて訴訟を提起しました。この訴  訟は、全面勝訴でした。

仙台地方裁判所での山一証券を相手とする訴訟では証券会社の勧誘員の証人尋問を行いました。その勧誘員は、ワラントについて色々説明したのですが、私が反対尋問で「私は、ワラントを勉強しているから分かるけど、一般の人は何を言っているのか分からないのではないかと尋ね、その上でユーザーに何分説明しましたか」と尋ねたところ、その勧誘員が2分位説明したの答えました。

そこで私は、勧誘員に今貴方は、10分以上説明したが、2分で説明出来ますかと尋ねたところ、その勧誘員は、何も答えられませんでした。その後裁判官の質問となり、裁判官は、その勧誘員に何を言っているのか分からんと言って尋問を終了させました。その後和解の話になり、8割和解が成立しました。

また、仙台地方裁判所の大和証券を相手とする訴訟は、大和証券の代理人が東京の弁護士だったこともあり難儀しましたが、何とか5割の和解に持ち込みました。

 

5.ワラント訴訟によって自己決定権の行使ために説明義務が重要であるということが認識されたことからか、その後間もなく消費者契約法が制定され、事業者側の説明義務が明文化されました。

事業者側の説明義務のように現在では常識となっていることでも、法律の条文として認めさせるまでには多くの人間の膨大な労力を必要とした歴史があることが多いと思います。

 

以上

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